2013年4月13日土曜日

村上春樹「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」 読後感


村上春樹はさらに成熟を深め、深くて複雑な味わいのある物語を書くようになった……話題の新作「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」を読んでそう感じました。

仕事帰りの電車の中で読み始めたんだけど、あっという間に物語の中に引き込まれ、そのまま、千代田線を往復して一気読みしてしまった。

奇妙なタイトルだけど、読み終わるとどんぴしゃりなのに驚きます。

二十歳の時に、完璧に調和の取れた5人組から、全く理由も告げられずに絶交された主人公・多崎つくるは心に深い傷を負います。16年後に、昔の仲間を尋ね、その理由を明らかにして、自分を再生させる旅に出る……というのが、大まかな物語の枠組み。

単純な筋だけど、メタフォリカルなエピソードが複雑に共鳴し合ってディープな物語になっています。所々にちりばめられた村上春樹の人生に対する洞察も光っています。

村上春樹は、「悪」を象徴的に描くのが抜群に上手い作家だけど、今度の作品にも「悪霊」が出てきます。友人の父親が語るあるピアニストと悪魔の契約の話、友人だった女性の心に巣食った悪霊。

そしてハルキストにはお馴染みの、「ダンス・ダンス・ダンス」で五反田君がキキを絞殺したエピソードや「少年カフカ」が父親のジョニー・ウォーカーを殺害したエピソードの変奏曲がさらに深みを持って語られます。

何か決定的に心を損なわれたことがある人、心に自分を破滅させる「悪霊」がいると感じている人は、多崎つくるの再生の物語に何らかの希望を感じて、心を動かされるんじゃないかな……。

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