やっぱりホームズは良いなぁ。
事件の推理やトリックはさすがに古かったり、そりゃあないだろう、というものも多少あるけど、ホームズ物の素晴らしさは、シャーロック・ホームズ、それに狂言回しのジョン・ワトソンの人物的な魅力によるところが大きい。
子供の頃は気にとめなかったけど、ホームズって、あまり犯人を警察に突き出さないんですよね。あくまで自分の内的なモラルに従い、それに照らして、許すべきものは許す。その善悪の基準が非常に高潔で、騎士道精神に則っている。
かなり問題のある変人だけど、真の意味で男らしいし、ジェントルマンです。日本でホームズの人気が高いのは、ホームズの犯人や関係者に対する細やかな心配りが、日本人の感情にフィットしているからじゃないかな。
今回、読んで良いと思ったのは以前、好きだった「まだらのひも」や「ソア橋」などトリックが鮮やかな作品ではなく、ホームズやワトソンの魅力がよく出ている作品でした。
というわけで(?)、個人的ホームズのベスト5をw
1 「ボヘミア王家の艶聞」
短編集「冒険」の第1作で、ボヘミア国王の愛人アイリーン・アドラーが隠し持っている、国王との写真を巡るアドラー対ホームズの知能戦。ホームズ、負けちゃうんですよね。その負けっぷりがしびれるw
鮎川信夫も指摘してたけど、シリーズの第1作を失敗談で始めるなんて趣味が良いとしか言いようがない。シリーズもの唯一のヒロインも魅力的。
2 「覆面の下宿人」
「事件簿」に入っている作品。ライオンに顔を食いちぎられたサーカスの元女曲芸師の告白。子供のころ、彼女に対するホームズの思いやりを読んで「なんてかっこいいんだ!」と感激したけど、50歳を超えた今でも全く同じ感想を持ちました。……進歩がないだけか?www
3 「黄色い顔」
「回想」に収録されている作品で、ホームズの推理が外れる数少ない失敗談(?)。真相は泣かせる内容で、ホームズが推理が外れたことを恥じ入るエンディングがまた最高!
4 「恐喝業者ミルバートン」
「帰還」収録。ホームズとワトソンの友情がグッと来る作品は「ガリデブが3人」が有名だけど、こちらもなかなか。打つ手がなくなり、恐喝王の邸宅に不法侵入しようとするホームズに友情と騎士道精神から決然と同意するワトソンがかっこいいw
意外な結末も言うことなし。
5 「三人の学生」
これも「帰還」。犯罪でもなんでもないカンニング事件。魔が差した学生に対するホームズのやり方はまさに「花も実もある粋な計らい」。
番外「青い紅玉」
「冒険」収録のクリスマス物語。クリスマスの寛容と博愛の精神が良い感じに出ている。ガチョウの内臓から青いガーネットが出てくる、という描写が個人的なフェチを直撃w
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ちなみに翻訳は「事件簿」が深町眞理子、「恐怖の谷」が阿部知二、それ以外は詩人・鮎川信夫で読みました。鮎川さんの翻訳は、不自然なところが全くない素晴らしいものです。
人間性に対する深い洞察、アングロサクソン的な冷徹な分析力、それに細やかな心配り……鮎川さんとホームズはどこか似ているところがあった。ホームズのセリフに鮎川さんの声が聞こえるように感じるのはファンの錯覚か。
翻訳権の関係で、「事件簿」「恐怖の谷」の訳がないのが返す返すも残念。ドイル没後60年の1990年には著作権が切れるのは分かってたんだから、前もって翻訳を依頼することはできなかったのか、などと恨めしく思ったりもしますが、86年に鮎川さんが急死するなんて神様でもなければ予見できないことだったからなぁ……。
鮎川訳は「冒険」「回想」「帰還」「最後の挨拶」の短編集、「緋色の研究」「四つの署名」「バスカビル家の犬」の長編を1冊にまとめた「シャーロック・ホームズ大全」なら、今でも中古本がアマゾンなどで手ごろな価格で手に入ります。
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