2013年9月5日木曜日

「特攻 空母バンカーヒルと二人のカミカゼ 米軍兵士が見た沖縄特攻戦の真実」



以前から気になっていたマクスウェル・ケネディの「特攻 空母バンカーヒルと二人のカミカゼ 米軍兵士が見た沖縄特攻戦の真実」を読み、心を動かされました。

沖縄海域で繰り広げられた史上最大の自爆攻撃作戦「菊水作戦」が熾烈を極めた1945年5月11日、米第58任務部隊の旗艦、空母「バンカーヒル」に、特攻隊の爆装零戦2機が突入に成功しました。この本は、その戦闘を中心に「特攻」の真実に肉薄した渾身のドキュメントです。

作者はロバート・ケネディの息子、JFKの甥。生き残った人々に行った膨大なインタビューを元に、米側の資料はもちろん、日本の資料も徹底的に調査して書かれています。

戦争に至る日米の利害の対立構図が明快に説明され、日本がパイロットの命を使い捨てにする特攻作戦に全面的に頼るようになるプロセスを詳述し、日本の文化的側面から考察しています。

突入に成功した安則盛三中尉と小川清少尉は、それぞれ旅順師範学校卒、早稲田の政経卒のいわゆる学徒兵です。こうした文系の学生が、なぜ特攻隊のパイロットにならざるを得なかったか?特に小川少尉に関しては、遺族や戦友に徹底的取材して、その過程を浮き彫りにしています。

一方、攻撃を受けたバンカーヒルは、太平洋戦争の中~後期にかけて米高速空母機動部隊の中核となったエセックス級空母です。その設計、メカニズム、武装から運用法、組織系統まで詳しく書かれていて、この方面の知識がほとんどなかったので非常に興味深かったです。

2機の零戦と500キロ爆弾による攻撃を受けたバンカーヒルは沈没こそ免れたものの大破し、戦死者346名、行方不明43名、負傷者264名の犠牲を出します。著者はその地獄のような惨状と、乗員たちの運命、消火・救助活動など約を200ページにわたって克明に再構成しています。本書の白眉でしょう。

消火活動や一酸化中毒などでバタバタと仲間が死んでゆく中で空母を動かした機関室の人々の英雄的行為を描く一方で、どさくさに紛れて盗みを行う兵士の姿なども中立的な視点で描いています。

全部で670ページの大著ですが、読みやすい翻訳で、あっという間に読めてしまいます。

プロローグで、ケネディはこの労作を書いた動機をこう書いています。少し長いけど引用。

------------------------------------------------------------
 あの日、バンカーヒルの上で、日本とアメリカの文化が衝突した。生きようという意志を消し去るほどの文化の力というのは、当時も今も変わらずアメリカ人には理解しがたい。
 あれほど大勢の若者たちが、達成することが必然的に自らの死を意味する任務のために何カ月も訓練をするなんて!しかも彼らには、まもなく日本が戦争に負けるということが分かっていたというのに!
 アメリカが対テロ世界戦争の行く先を模索し、世界じゅうで自爆攻撃が行われているという事実と向き合おうとしている今こそ、私たちは、「生きよう」という人間の基本的欲求に打ち克つほどの文化の力というものを理解しなければならない」
------------------------------------------------------------

ケネディは1965年生まれで、ほぼ私と同世代です。日米のどちらにも偏ることなく、「特攻」とは、そして太平洋戦争とは何だったのかを戦争とは直接関係のないアメリカ人のケネディがここまで深く追求したことは賞賛に値すると思います。

特攻で死ななければならなかった日本の若者たちと、攻撃を受けて死んでいった米兵たちへの鎮魂になっているとともに、現代的な意義も持った労作でした。

特攻は、逃げ場のない状況に追い込まれた若者が、家族や祖国を守ろうとして行った究極の自己犠牲だったと思います。それは死ぬことがわかっていながらバンカーヒルの機関を動かし続けた乗員の自己犠牲とも共通するものがあります。

戦争や特攻を賛美するつもりはないけれども、こうした自己犠牲はいつの時代でも尊いものだと思うし、敬意と感謝の念を押さえることができません。

ケネディはこうした自己犠牲を表現した「橋の上のホラティウス」という詩の一部を引用しています。チャーチルが愛した詩だそうです。

------------------------------------------------------------

橋の上のホラティウス

そして門の指導者、
勇敢なホラティウスは言った。
「地上の人間にはすべからく
遅かれ早かれ死が訪れる。

ならば父祖たちの遺灰のために
神々の神殿のために、

かつて彼をあやしてくれた
優しい母親のために、
彼の子に乳をやる妻のために、
永遠の炎を燃やし続ける
清き乙女たちのために、
彼らを
恥ずべき悪党セクストゥスから
守って
強敵に立ち向かう

これに勝る死に方があるだろうか。

あなたにできる限りの早さで
橋を落としてくれ、
執政官どの。

私はあと二人の仲間とともに
ここで敵と対峙する。
あなたの路へと続く一千の敵は
この三人によって
食い止められよう。

今こそ、私の傍らで手を取り
共に橋を守るのは誰だ?」

0 件のコメント:

コメントを投稿